「週刊かふう」は琉球新報社の住宅情報誌です。
2020年4月から月一回、第4金曜日の号に「風水看がみる景色」としてエッセイを連載しています。新たな琉球風水レッスンの中で、これまでの掲載内容を順次紹介していきますので、おもしろ楽しく読んでみて下さい。
◆第57回最終回 持続可能な蔡温の取り組み◆
蔡温の林政によって琉球王国時代の末期には緑豊かな景観が広がった。
しかし、明治以降になると杣山(そまやま)は開墾や乱伐に遭い、戦後には多くの樹木が伐採された。
わずかに残った蔡温時代の松並木も道路の拡張や松くい虫の被害などで姿を消したが、沖縄本島最北端の辺戸には今でも蔡温松並木が残っている。
辺戸蔡温松並木保全公園の琉球松並木
辺戸集落ガイド
※の平良さんに案内していただくと最初に向かったのは辺戸神屋だった。
集落を散策する前に、ここで琉球開闢(かいびゃく)の霊地かつ集落の聖地である辺戸御嶽にご挨拶することになっているという。
琉球開闢の地とされる安須森御嶽を一望する辺戸神屋は現在でも重要な拝所
近くには、琉球国王が元旦の朝に御水撫(ウビナディ)をするための水を汲む辺戸の大川があった。平良さんがくんでくださった水は豊かな森に育まれた軟水で甘かった。
「なぜ辺戸集落の人たちは戦後になっても蔡温松を伐らなかったのか」と平良さんに尋ねると、「祖先の代から松は御用木で勝手に伐ってはならないと言われてきました。辺戸の人たちは皆まじめだからそれをきちんと守ってきたんです」とのこと。
国頭村役場によれば、琉球松の寿命は約200年~300年で、近年台風による倒木や県内にて蔓延している松くい虫の影響により蔡温松が減少傾向にある。
蔡温は持続可能な森林資源の保全と活用のために林樹を伐採する順序や苗木の播植方法を教えた。
今は人の手が加わらない森の荒廃が問題となっている。成長した樹木は伐採して活用し、新たに植樹することで森の循環が促進される。県産木材を活用することは沖縄の森を守ることになる。
台風で倒れた蔡温松も国頭村役場のカウンターとなって美しい木目を見せている[写真は国頭村商工観光課より提供]
燃料が薪から石油やガスに代わり、建材に外国産の木材が使われるようになった現代では、森や林業への関心は薄い。
しかし、沖縄本島中南部の約80%の水道水はやんばるの森から運ばれている。生命や経済の源となる水を産み出している森の価値を決して忘れてはならない。
このエッセーでは、琉球王朝時代から現代まで、沖縄本島から離島に至るまで、時空を超えて風水に関わる話題を取り上げてきた。
その中で沖縄の風水の特徴として普遍的に見られたのは、「母が幼児を抱きかかえる形とその思い」すなわち「抱護」だった。それは首里城や集落、御嶽、墓、屋敷などに見ることができた。
抱護は蔡温によって体系化された風水術であるが、古代の自然崇拝や祖先崇拝、御嶽やウナイ神信仰が土台となっている。
蔡温が守ったやんばるの森は、これからも母が子を抱くように沖縄の希少生物や島に住む人々を優しく守り続けることだろう。
「風水看がみる景色」は本稿が最終回となります。
5年間お付き合いいただきありがとうございました。
またお会いできる日を楽しみにしています。
※辺戸蔡温松並木保全公園と辺戸集落の散策は地元のガイドに案内してもらうことをおすすめします。